スアド/生きながら火に焼かれて

怖い話。それも実話。 読んだから、何かが出来るとは思わない。何も出来ない以上、読んでも無駄と言われればそうかもしれない。でも、何も出来ないからと言って、怖い事だからといって知らなくていいやとも思わない。

生きながら火に焼かれて (ヴィレッジブックス N ス 4-1) - スアド, 松本 百合子
生きながら火に焼かれて (ヴィレッジブックス N ス 4-1)


◆制作
原題:Brulee vive 2006年 ヨルダン ヴィレッジブックス

◆内容
中東の小さな村で、洗濯していた少女が生きながら火あぶりにされた。理由は、彼女が恋をしたから。重度の火傷、心の傷を抱えて、懸命に生きる1人の女性の命をかけた証言。想像も出来ない。重度の火傷の痛み。耐え難いだろう。それだけでも胸が痛い。

体の痛みに加えて、心の痛みは、日常生活に影響を及ぼす。家族に殺されかけた心の痛み、憎む気持ちと恋しい気持ち、恋をして家族を汚したという罪悪感と、自由に恋をしたいという気持ち、引き裂かれるかのような正反対の価値観と感情。

その村では、女性は家畜より価値がないという。村での生活の様子は、読んでいて辛い。

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スアドが助け出されてヨーロッパに来た時の衝撃が悲しい。みんな当たり前のように綺麗な服を着て化粧をして、幸せそうに笑い町を歩く。そんな事が許されるのかという恐怖心と羨望。

戸惑いながらも、新しい世界に順応しなければならない。羨望と疑心暗鬼、新しい価値観と育ってきた価値観の違い。心の中を整理し、乗り越えようとする彼女のエネルギーに励まされない人はいないんじゃないかと思う。生まれた時からの価値観をすべて変えるのは、とても大変な事なのだと読んでいて感じる。彼女は今、幸せみたいだ。よかったと心から思う。どれだけの痛みに耐えたのか、努力したのかと思うと胸が詰まる。

その国の因習なのだから、口をだすべきじゃないと言う人もいる。暴力が関わらないならそれもわかるが、他人を傷つける事がわかっているのにそれでは、あまりに悲しいと思う。

男性は偉くて女性は家畜以下だと思っているその村の、男性達が悪いと言うのは簡単だけど、名誉の殺人をしている男性側も実は苦しかったりする。1人だけが名誉の殺人はしないと言い出したら、その家族全員が被害にあうだろう。社会全体がそうならないと、1人で大勢に立ち向かえない。

もし彼らがしている名誉の殺人はしなくてもいい事なのだと、 そういう流れがその小さな村まで浸透していたなら、 きっとその村の男性達もほっとすると思う。自分の娘を殺すのが好きという人の方が少ないだろうから。

知らないというのは、情報がないというのは、怖い事なんだな。教育は大切なんだなと思った。