シェルビー・ヤストロウ/高額慰謝料

命と愛とお金と。難しいテーマなのに読みやすかった。


◆制作
原題:Under Oath 1995年 アメリカ 集英社

◆あらすじ
あと数年しか生きられない症状の重いダウン症を出産した母親は、妊娠中の診察ミスだと医療過誤を訴えた。若い産婦人科の主張は正反対。母親の主張は、きちんと診察を受けた。妊娠中の検査についても医者に聞いたが、必要はないと言われて検査を受けなかった。子供がダウン症だと知っていれば、産まなかったかもしれない。若い産婦人科医は、何度も検査を勧めたが仕事が忙しいと母親は来院しなかったと。

医師は訴えられた時や医療ミスの為に保険に入っていた。保険会社の弁護士は、争ったあげく向こうが勝訴したら多額の慰謝料になる。それぐらいなら認めて示談にしようという。だが、嘘でも認めてしまったら、産婦人科医の信用は落ちる。納得がいかない産婦人科医と弁護士。

どうして母親が嘘をつく必要がある?出産は命を落とすこともある。医者の診察や指示を頼りにして実行はしても、拒否する理由はないはずと母親の弁護士。そんな時産婦人科医師の弁護士が言う。もし、少女の母が嘘をついているとしたら、動機は何だろう?どうして診察を受けなかったんだろう?

それから相手の母親の調査がはじまった。妊娠したと思われる時期の前後に、彼女はある別荘へ行っていた。そこで結婚前から付き合っていた男性と会っていたのだ。

その男性は妻が何度も流産して離婚していた。その事実を知った時、彼はダウン症のキャリアなんじゃないかと。通称ダウン症は、21番染色体異常。そういう場合、流産しやすいのだとか。

問い詰められて母は話し出した。彼と結婚したかったが、父に猛反対された。押し切って結婚すれば、自分も彼も仕事を失う。それほど力のある人。

父の勧める人と結婚はしたが、彼を忘れられず再び関係をもってしまう。診察を受けると、正確な妊娠時期がわかってしまうかもしれない。妊娠の正確な時期を知られると、子供の父親が夫ではない事が解ってしまう可能性があった。それを避けるために、診察も検査も受けられなかった。

生まれてしまえば、早産だったという事にしようと思っていたら、生まれてきた娘は重度のダウン症で、お金がかかった。やりくりしても苦しくて、医師を訴え医療費を捻出しようと思いついた。お金を払うのは保険会社で、医師に損失はないし娘も助かるからと。

***

アメリカの裁判制度と医療制度は、日本とは違うので医療にもお金がかかる。ダウン症の子供の出産するかしないかの議論。症状の多様さ、かかる費用、看護する家族の苦悩。

難しい染色体の話を、素人にもわかりやすく簡潔な形で読ませてくれる。簡単に答えが出せないテーマを、すんなりと読ませてくれたヤストロウさんと訳してくれた戸田さんに感謝。