ニッキ・フレンチ著/優しく殺して

かなり怖いけど、同時にため息が出そうな恋物語。

優しく殺して (角川文庫 フ 23-3)


◆あらすじ

道路の真ん中ですれ違った男性。彼から目が離せない。そのまま、アリスはその男性アダムについて行ってしまう。彼は今まで知っている誰とも違った。

アリスはこれまで真面目に暮らしてきた。優しい恋人、やりがいのある仕事、あたたかい家族や友人、自分の人生に満足していたはずだった。そうなるように生きてきたつもりだった。ところがその暮らしがアダムに出会った事で崩壊した。彼に抗えないアリスは、婚約者や友人など周りの人すべてと疎遠になっていく。アリスの世界には彼だけ、彼しかいなくなる。

そんなアダムは世界的に有名な登山家だった。自分の周りにはなかった世界。アダムの友人たちは彼を英雄のように扱う。ヒマラヤでの遭難事故から生還しただけでなく6人の命を救ったから。反面、何故アダムがアリスを恋人に選んだのか首をかしげる者もいた。多くを語らないアダムだが、アリスにだけは異常に優しかった。

アダムはアリスにプロポーズし、アリスはそれを受け入れた。彼女にとって人生で一番幸福な時に、2人の関係に陰りが見え始める。アリスのもとに手紙と電話が入るようになった。それはアダムの過去についてだった。不審に思ったアリスはアダムの過去を探り始める。

そこで見つけたものとは。

***

勇気があって男らしく、誰とも感じた事のない愛や快感を感じさせてくれる男性。彼に惹かれてしまったせいで、それまで築いてきた仕事や友人や恋人といった環境を全部捨てたアリス。心ではもとの生活の方が幸せだとわかっているのに。

怖いのはその男性が極端な人だということ。心の中では愛を求めていて、憎みきれない人だという事。胸がきゅんとしながら、背中がぞわっとするという。まさに命がけの恋。

もう1つやっかいなのは、アリスがアダムと別れても意味がないという事。心が彼から離れない以上、アリスは永遠にアダムを求めてしまうのだろう。もう元の生活に戻る事も新しい恋をすることも出来ない。

それほどの恋をしたアリスは幸せなのか不幸なのか。最後が切なくて好き。