ジャック・ケッチャム/隣の家の少女

 自分がディヴィットの立場だったらと考えると怖くなる。



◆制作
原題:The Girl Next Door 2003年 アメリカ 扶桑社

◆あらすじ
1958年の夏。当時、12歳のわたし(デイヴィッド)は、隣の家に引っ越して来た美しい少女メグと出会い、惹かれる。メグと妹のスーザンは両親を交通事故で亡くし、隣のルース・チャンドラーに引き取られて来たのだった。

ある日、ルースが姉妹を折檻している場面に出会いショックを受けるが、ただ傍観しているだけだった。ルースの虐待は日に日にひどくなり、やがてメグは地下室に監禁されさらに残酷な暴行を。

***

ルースは依存型の人間だと思う。若い頃、周囲の男性にちやほやされている間はよかった。子供を持ち男とは上手く行かず美貌と若さは損なわれていった。

そんな時にメグを引き取る事になった。最初はその若さと美貌への羨望だったのかもしれない。その美貌のメグを服従させる事が、若さより美貌より価値のある自分(ルース)という勘違いが一時の安らぎをもたらす。メグがいなければ、ルースは自分に価値があると思えないという依存。

***

だが、メグは簡単に誰かの望む人間になるような子ではなかった。それがメグの本当の価値。それはルースにはないもの。だから、メグを自分と同じ次元へ引きずりおろす必要があった。

そうしないと、自分が価値のない人間に思えてたまらなかったんじゃないか。メグがどんなに若く美しく見えたって、結局は私と同じよとルースは思いたかったんじゃないだろうか。

その為にメグの妹スーザンを人質にとる。メグが服従しないのなら、スーザンが責めを負う。メグは妹を庇ってルースの言いなりになるしかない。

そうやって形だけ服従させても、ルースは満足しない。何故ならメグの本質まで奪えた訳じゃないから。自分より妹を庇える勇気のある強い精神は、誰にも奪う事は出来ない。

***

最初の頃、ルースは男の子達にメグに触れるなという。男の子達の関心がメグに移るのが、ルースには耐えられなかった気がする。

そのうち、メグに同じような服を着せたり母の形見の指輪を奪って自分のものにして、同化しようとしているように思える。

それでも満足出来ないルースは、とうとうひどい事を男の子たちにさせようとする。体に文字を刻むのは、メグの価値をないものにしてしまおうとまるで手に入らないものなら、壊してしまえとでもいうようにだんだん狂気になっていく様にみえる。ってか、怖い。

ルースは、自分と他人の境界線がない。自分以外の人が自分と違う感じ方や考え方を許せない。強制して押し付けて、自分は正しいのだと認めさせたい。逆に言えば、みんな同じならルースの個性はなくなるで個性がないみんな同じなら、誰でもよくなるわけだしルースがやってる事は意味がなくなる。矛盾してるんだけど気付かない。

***

この本の中での救いがデイヴィット。隣の家での惨劇を見てしまい、いつの間にか巻き込まれていく。手を出してはいないが、傍観してる事、積極的に助けない自分に罪悪感を感じてる。

誰だって怖いだろう。大勢に立ち向かう勇気を持つのは難しい事。悪くすれば自分が被害の標的にされる。それでも最期に彼は行動する。ちょっと遅くて被害は大きく、彼の心にも傷を残したけれど、行動したのはすごいなと思う。