トマス・H・クック/闇をつかむ男

 クック節ではあるけれど、ちょっと不思議な感覚。

闇をつかむ男 (文春文庫) - トマス・H. クック, Cook,Thomas H., 和彦, 佐藤
闇をつかむ男  - トマス・H. クック


◆制作
原題:Evidence of Blood 1997年 アメリカ 文藝春秋 

◆あらすじ
天才的記憶力を武器に次々と問題作を発表する犯罪ノンフィクション作家キンリーのもとへ、故郷の親友である保安官変死の報せが届いた。遺体なき少女暴行殺人。遺された捜査の跡をたどる記憶の奥底に浮かんだのは、かつて2人が迷い込み、そして2度と近付かないと誓った山奥の谷間にひっそりと建つ蔓に絡まれた廃屋だった。

***

キンリーは、故郷を出て作家として生計を立てていた。故郷はすでに過去になっている。時々取り出して懐かしむもの。そんな故郷の中で、唯一今も過去の人ではないのが親友の保安官だった。そんな保安官が変死した。

もう、故郷は過去の中、いい思い出ばかりなわけじゃない。帰る必要はない。そう思いながらキンリーが故郷の土を踏んだのは、時間がたって薄れてしまった自分の感情と、親友の保安官への思い、変死というはっきりしない亡くなり方のせいだろう。

保安官が亡くなる前に調べていた過去の事件。その事件のファイルを読み、彼の後をたどるように事件を調べ、いつの間にか足を踏み入れてしまうキンリー。忘れ去ったものに、次々に出くわしてしまう。それも、過去と現在、両方を一変に体験するかのように。

時間の流れが現れるものもあれば、時がたっても何も変わっていないものもある。そんな時の流れの中で、どこを探せばいいのか、自分はどこに向かっているのかさえ、見失いそうに
なるキンリーはさまよっているかのよう。多分、これが不思議な感覚になったんだろうな。

そして、行き着いた先に見えたものはルーツ。自分自身を見据える原点になるもの。クックならではのテーマな気がする。神の街の殺人ではその人の核となる考え方を、夜の記憶では、その人の根底にある幸福感を、熱い街で死んだ少女では、環境が与える人格形成を描いてきたクック。一貫して人の考え方や、信念みたいなものをテーマにしてる気がする。

今回のテーマはちょっとわかりにくかったけれど、もしかしたら、それは日本の環境のせいもあるのかもしれない。日本は今まで単一民族だったから、人種とかを意識する瞬間が少ないんだろうな。