小川洋子/薬指の標本

すごく好みの話だった。映画より原作の方が好き。


◆制作
1994年 日本 新潮文庫

◆あらすじ
薬指の標本
サイダー工場で働いていた時、薬指を挟んでしまって少し切れてしまった。それを機に工場を辞め辿り着いた仕事先は標本室。楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡。人々が思い出の品々を持ち込む標本室で働いていたある日、標本技術士の弟子丸氏に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりだった。

六角形の小部屋
背中の痛みが取れない。医者に勧められてプールに通い始めた。そのプールで目を離せない女性に出会った。彼女は人目を惹く人ではなく地味な女性なのに、何故か彼女に話しかけ後までつけてしまった。そして行き着いたのは六角形の小部屋。そこでは何を話しても声が漏れないので何を話しても自由だ。けれどその小部屋の事は他で話してはいけない。

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薬指の標本という映画は前に見ていた。先に映画を観ると原作を読まないのでこの本も当初は読むつもりはなかった。それなのに手に取ったのは映画と本では印象が少し違ったと書いている人がいたから。書いてくれた人に感謝したい。読んでよかった。

薬指の標本

博士の愛した数式を書いた小川洋子さん原作の映画 というので観る気


読んでみると確かに印象は違った。映画の方はエロスの方が少し強い気がしたのだけど、本はホラーの印象が少し強い。静かなホラーとでもいうんだろうか。自分から望んでそこへ行く。何の為か。わざわざ少し怖い所へ自分から行く理由。愛というのとも少し違う気がする。それはどうしようもなく惹かれる、抗えないものの気がした。そういうものを繊細な描写で書かれていてあっという間に読んでしまった。

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映画にするなら薬指の標本だろうと思うけど、私が好きなのは六角形の小部屋の方。主人公の婚約者を憎んでしまいそうという気持ち、1つ々はささいな事なのに積み重なると耐え難くなる。たった1度会っただけの男性と寝るという行為。普段はしない事をしてしまう彼女の行動に少し共感してしまう。六角形の小部屋に執着してしまう気持ちも罪悪感さえも。

本そのものはとっても薄い。その薄い本に2つのストーリー。表現しにくいだろうと思う繊細なものを表現できてしまっている事を考えると、言葉を丁寧により分けて積み上げた印象さえある。