芦花公園/異端の祝祭

世界観が好き。


◆制作
2021年 日本 角川文庫

◆あらすじ
島本絵美は生きている者と人ではない者の区別がつかない。そんな状態なので就職の為に面接を受けても落ちてしまう。ある日、大手企業のモリヤ食品の青年社長に気に入られる。周りが止めても絵美は青年社長の元へ行く。そして連絡がつかなくなる。心配した兄の島本陽太は、心霊が関わる事件を請け負う佐々木事務所へ相談する。

佐々木るみは、つてを頼って情報収集をはじめる。奇妙な出来事の中で共通点を見つける佐々木、その共通点の中にいくつかの宗教との類似点を見つける青山。だが何かがおかしい。

そんな時、絵美の兄、陽太が怒鳴り込んでくる。

***

人ではない者を見る絵美が青年社長ヤンに出会い、彼の言うなりになるあたりから引き込まれる。明らかにヤンはいい者ではないけれど、絵美にとっては守護神のような役割を果たす。この絵美が見る奇妙で恐ろしい風景につかまれた。

絵美を心配してヤンの元へ潜入したという兄の陽太の話がまた奇妙で、ヤンが何をしているのか、何が目的なのか、それに絵美はどう関わるのだろうかと思うと止まらなくなった。

佐々木事務所の2人、佐々木るみと青山幸喜。助けて貰ってばかりなのかと思ったら青山さんの知識がわりと使えたり、じゃじゃ馬かと思っていた佐々木るみの過去がじゃじゃ馬なんてもんじゃないと解ったり。いいコンビだなと思う。お互いを尊敬し守ろうとする関係は読んでて気持ちがいい。

ただ、妹の心配をしている兄というには、陽太は執着が激しすぎた。そのおかげで陽太の正体は想像がついたし、ヤンの目的も途中から想像がついた。人が優しくする時の理由はわりと決まっている。本当に大切か、利用しようと考えているか。ヤンと陽太は利用の仕方が違うけど、絵美の事を本当に案じて、彼女を尊重しようという態度とは思えない。

石上や物部という霊能力者とでもいうのかな、のキャラも好き。いくつかの宗教の話、家族の関係性、るみや青山の生い立ち、絵美の事件、依存の話、たくさんの要素をすんなり読めて、1冊にまとまってるのは好き。

ただ欲を言えば、誰かの目線で読みたかった。この話なら佐々木るみって事になるんだろう。彼女が、何を考え何を感じ動いているのか、それがもう少し書かれていたら、るみがもっと好きになっただろうし応援しただろうし、感情移入して読めたなと思う。面白かったからこそ、余計にそう思うのかもしれないけど、期待しすぎだろうか。

ラストが良かった。絵美はこの世のものではない者をずっと見てきて、誰にも理解されず孤独に生きてきた。その絵美が同じ境遇の人を見つけたら、そりゃそうなるよねって思う。そこまで書いてくれた事が、この本の一番好きなところかも。