トマス・H・クック/死の記憶

 忘れようとしていた記憶が、35年後の今よみがえる。 

 死の記憶 (文春文庫 ク 6-8) - トマス・H. クック, Cook,Thomas H., 和彦, 佐藤
死の記憶 (文春文庫 ク 6-8) - トマス・H. クック


◆制作
原題:Mortal memory 1999年 アメリカ 文春文庫

◆あらすじ

家族を殺した殺人犯というテーマで本を書いているという女性が、スティーヴに話を聞きたいとやってきた。スティーヴは35年前の一家惨殺殺人事件のたった一人の生き残り。当時彼は9歳だった。

取材を引き受ける事にしたスティーヴは当時を振り返る。事件があった日、スティーヴは友達の家に遊びに行ってた。雨のふる夕方、彼が家に帰ったら事件はすでに終わっていて、母と姉が亡くなり父はいなかった。

それからおばに育てられ、設計士とという仕事を得て結婚し子供が生まれた。そして40代になって受けた取材だった。あの頃は子供で意味が解らなかった事が、大人になった今、違う意味をもっていた事に気付いたスティーヴ。忘れようとしていた事が、自分の中で無視できなくなっていく。

妻や妻の家族は反対したが、スティーブは事件を調べ始める。当時の記憶を思い出しながら、事件の資料にも目を通す。事件の前日、当日の朝。母と父の会話。両親と姉の会話。父は本当に家族を殺したんだろうか。だとしたら動機は何だったのか。どうして自分だけが殺されなかったのか。

住む所や仕事は変えられても、嗜好はそう簡単に変わらない。父の趣味を思い出したスティーブは、その趣味から父親の足跡を見つけて追っていく。警察が見つけられなかった父をスティーブは見つけた。その時、自分が父探しをやめられなかった理由に気付く。

何故、僕だけ殺さなかったの?何故、僕だけおいてったの?父はやはり母や姉を殺してはいなかった。スティーブが帰ってくるのを待っていたが、帰りが遅すぎた。あれ以上待っていれば、逃げるチャンスが無くなった。スティーヴは置き去りにされたわけではなかった。

***

しとしとと降る雨の日、1人だけ残されたスティーヴ。家族は亡くなって生きている家族は行方がわからない。大きな声を上げて泣けなかった彼は、自分の気持ちを押し殺して生きてきた気がする。スティーヴが結婚した相手は、彼の気持ちに寄り添ってくれず、事件を調べ始めたスティーヴに今更何をしたいのかという反応をする。ここでも彼はないがしろにされている。

父は、取り残された彼をずっと心配して生きていた。愛されてなかったわけでもないとわかった時のスティーヴの喜びと安堵。人は誰かと寄り添い合いながら生きていくのが幸せなんだなと思う。

事件は35年前に思われていたものとは全然違っていた。見方によって全然違う話になってしまうのが面白かった。