京極夏彦/鵼の碑

 相変わらず分厚かったな。

文庫版 鵼の碑 (講談社文庫)

◆制作
2024年 日本 講談社

◆あらすじ

寒川薬局の薬剤師が失踪した。付き合っていた御厨さんは榎木津探偵事務所に寒川を探して欲しいと依頼する。薬局は経営出来ていてもこのままというわけにはいかない。寒川の父は植物学者で亡くなった時、遺体が消えその後また現れるという奇怪な状況だった。寒川は父の死の謎を解こうとして日光へ。御厨は榎木津の部下の益田と共に寒川を追って日光へ来ていた。

刑事の木場は、先輩刑事から奇妙な話を聞かされた。一度発見された遺体が消えたという20年前の事件。消えた遺体のうち2体は、八王子の強盗放火事件で死亡した笹村さんと妻の澄代さんではないかと言う。木場はこの件を調査する羽目になり日光へ入った。

発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆についてきた作家の関口は、榎木津の兄が経営するホテルで、脚本家の久住と共に父殺しの記憶をもつ登和子と知り合う。

亡くなった大叔父の後始末に来た医師の緑川は、大叔父の残したカルテや記録をどう始末しようかと思っていた。その時、昔の知り合い、中禅寺、関口、榎木津が日光にいる事を知る。

古文書の鑑定をしている中禅寺は、仕事仲間の築山についた「化け物の幽霊」を祓おうとする。

***

好きなミステリーには2つの要素がある。1つは知りたいと思う欲をつついてくれる事。

3人の遺体が発見された後、消えた。警察官がすでに来ていたのに。刑事は詳細を調べてみる事に。

父が亡くなった時、通報があって警察官が出向いたら遺体がなく、しばらくして診療所に運ばれていた。その父からの最後の頼りから疑問を抱いた息子は父の足跡をたどる。

蛇恐怖症という女性が思い出した記憶は、父殺しだった。だが、まだ幼い彼女に大人の男性を殺せたはずはない。彼女の記憶と父の死の真相。

今回はそういう感じかな。

もう1つは感情が揺さぶられる事。

鵺の碑はそれが薄かった。過去の話が多くて、今、現在辛い思いをしている人は語り部ではないので、感情移入がしにくい。

亡くなった父の真相も父殺しの娘の真相も、昔の遺体消失の真相もすべて過去の話。出来るなら父の死の詳細を納得いくまで知りたいと願う息子の目を通して読みたかった。父殺しの記憶をもつ娘の目を通してその苦悩と父の記憶を読みたかった。

これが他の作家さんなら読むのを止めてる気がする。それなのに最後まで読めてしまったのは、小さな話を組み立てていくやり方に、この話の先が知りたくなったという事と、京極さんの文章が上手いからだと思う。失礼だけど口の上手い人に煙に巻かれた気さえした。

公安とか陰謀とかそういう事に興味がないので好みではなかったのと、別の話に場面がちょくちょく変わるので、話に入りにくかった。中禅寺さんが最後に出てきてスーパーマンみたいに解説していくのも違和感があった。そこまでの力があるなら寒川さんも祓って欲しかったな。寒川さんと御厨さんのカップルの、幸せな姿にほっこりしたかった気がする。

あんなに長い本を読んで好みじゃないジャンルもあるのに、あれこれ思えるって事はやっぱり面白いんだろうな。