ジョン・ソール/ナサニエル

ジョン・ソール特有の静かなミステリー。

ナサニエル (創元推理文庫) - ジョン ソール, 啓裕, 大滝
ナサニエル - ジョン ソール

◆制作
原題:Nathaniel 1986年 アメリカ 創元社

◆あらすじ
身重で一人息子(マイケル)を抱え夫に先立たれ、途方にくれるジャネット。

夫の両親が親切にしてくれ、夫の田舎に住む事になった。亡き夫の妹も妊娠中だが出産を恐れていて、20年前のあの夜が頭から離れないとジャネットに話す。

家族の歯車が1つずつ狂っていく。何がはじまりだったのか。夫は威圧的になり、妻は逆らわないが夫の言葉を信じなくなり。息子はそんな家を出て、娘は家を出る事が出来ず。

***

母と共に亡父の田舎に移り住んだ少年マイケル。長年、実家に連絡もしなかった父が、戻った矢先の事故。本当に事故だったのかと疑問に思うようになる。

すべての謎はあの夜に繋がる。父が家を出た夜。叔母が恐れている夜。祖母が歩けなくなった夜。子供が死んだ夜。あの夜に何があったのか。それを知るのは、祖父と亡き父だけ。祖父は死産だったと。それ以上は話そうとせず、その祖父も亡くなる。

***

祖父が亡くなった時、祖母はあの夜の真相を知る事になる。祖母が真相を知ってしばらくした夜、ジャネットに陣痛がきた。ジャネットも死産。兄になるはずだったマイケル。大人たちが死産だという言葉を信じられず。家族の悲惨な歴史は、繰り返すのか。

口から発せられる言葉と、心の声がどんどんずれていく。言わないでいい事と、言わなきゃならない事がずれていてすれ違っていく様子が切ない。どんな家族にでも起こりえるすれ違いが、悪夢に変わる瞬間。こういうの好きやわ。