ヴァル・マクダーミド/殺しの儀式

羊たちの沈黙は目が開いてて口に蝶、こちらの表紙は目を閉じてて頬に蝶に見える。
この表紙、私は興味をひかれたからありだったんだろうな。


◆制作
原題:The Mermaids Singing イギリス 1997年 集英社

◆あらすじ
イギリス中部の大都市で連続殺人事件が起こった。犠牲者はすべて男性だ。きれいに洗われた死体にはむごい拷問の跡。

血眼で犯人を追う警察は内務省から心理分析官トニーの応援を頼んだ。警察内部の冷ややかな目を背に、女性警部補キャロルとチームを組んで息づまる捜査が始まった。犯人は同性愛者か。そして、さらに犠牲者が。

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女性警部補キャロルは派手じゃないけど好感がもてるキャラ。あちこちから入ってくる情報から、次にやらなきゃならない事をテキパキと指示する。全体を見れる力、管理能力に長けてる。何でも一人でやるみたいな頑固なタイプではなく、相手の力を利用し発揮させる柔軟で現実的なタイプ。一生懸命さがいい。

プロファイラーのトニーは集中型。自分の中で自問自答を始めるので、他の事が耳に入らなかったりして、天然と言われるかもしれないキャラ。冷静なのは警部補と同じだけど、集中型の分だけ専門分野に強く、一匹狼タイプといえるかも。目的の為には、自分の感情さえある程度コントロールできる抑制力がある。ただ人間だからずっと抑えては入られない。本来は感情豊かな人だと思う。

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プロファイリングの手口や犯人の残虐な手口など、詳細に書かれているけど難しくはない。

そして犯人。あまりに残酷な手口なんだけど、その裏には悲痛な叫びみたいなものがある。
自分の願望に溺れてしまった人という感じがする。誰だって愛されたい。でも望むものがいつも手に入るとは限らない。愛されたい願望が強すぎて、無理に突き進めば相手の気持ちを無視することになりかねず、必要な時にだけ手を出すように見守れば、そのありがたみに相手が気づかないかもしれない。

犯人は愛されたいという願望が強すぎたんだろうな。そのせいで、歪んでしまう。ちょっと切ない。やった事はあまりにも残酷だけど、憎めなくてマクダーミドさん、やられましたって感じ。正義側の人達が素敵なのはもちろんだけど、悪役(犯人)側に悲しみとか切なさがあって人間らしいのが、私の好みなんだろうな。