少年は残酷な弓を射る

前に何かで紹介されててタイトルだけは覚えてた。


◆制作
原題:We Need to Talk About Kevin 2011年 イギリス

◆キャスト
ティルダ・スウィントン
ジョン・C・ライリー
エズラ・ミラー
ジャスパー・ニューウェル
ロック・ドゥアー
アシュリー・ガーラシモヴィッチ
シオバン・ファロン

◆あらすじ
自由奔放に生きてきた作家のエヴァは、キャリアの途中で子供を授かった。ケヴィンと名付けられたその息子は、なぜか幼い頃から母親のエヴァにだけ反抗を繰り返し、心を開こうとしない。やがてケヴィンは、美しく賢い完璧な息子へと成長する。

しかしその裏で、母への反抗心は少しも治まることはなかった。そして悪魔のような息子は、遂にエヴァのすべてを破壊する事件を起こす。

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家事をしながら観たので見逃したシーンもあるのかもしれないけど、優しい虐待に近いものなのかなと思った。

母は子供を産んだ事で子供の世話に追われる事になる。今まで言葉も理屈も通用する大人の中で仕事をしプライベートも充実していた母は、理屈の通じない相手に戸惑うことになる。わけもわからず泣く、わけもわからず反抗される。お願いしても叱っても思うようにはならない。いきなり異世界に放り込まれたようなもの。

息子のケヴィンは父親が抱くと泣き止み、母が泣くと泣く。世話をしている母としては心が折れそう。挙句、父親はそんなもんだと母の話を軽く扱う。

あまりの事に母がケヴィンを叩いて怪我をさせたシーンがあった。あのシーンは象徴的だった気がする。父の前で自分が転んだんだみたいに説明するケヴィン。それを母は否定できず息子に罪悪感を植え付けられている。あそこで違う。自分が叩いたと言えば、大人でも子供でも悪い事は悪いのだと子供に教えられたかも。もしくは私は悪くないわと母が開き直って罪悪感を感じずにいれば、状況は変わったんじゃないかと思う。

あれ以降、母は息子に遠慮したような態度になってる気がした。母と母以外の家族の間に見えない壁があるというか、母の孤独がより増していくというか。それに気づかない父親。いくら訴えてもまともに聞いてくれない父親に訴えることを諦め、息子を教育することを諦める母。

そこに娘が生まれる。ちやほやされる妹にイライラしていじめだす息子。そして父親と娘、学校でまで同級生を殺害する息子ケヴィン。息子を心配して学校へ行った母が、犯人は自分の息子だと知った時の絶望。これでもかと母を絶望に追いやるのは見てて辛い。

刑務所で母が息子に、何故こんなことを?と問うと、昔はわかってたけど今はわからないという。母を殺さなかったのは、母だけは何をしても許してくれると思っているからなんだろうと思う。

どんなに暴れてもダメなものはダメと教えられなかった子供。基準がぶれてるから人との関係も上手くいかなくなったんだろう。だから許してくれる母以外、そこにいた人たちを殺した。だけど、そうやって力が基準な場所(刑務所)に入ったら、当然だけど望むものじゃなかった。

あの母は怖くても面倒くさくても、夫が解ってくれるまでぶつかるか別れるか、息子が暴れてもだめなものはだめと引かない、それしかなかった気がする。他人の目線で見たら、あの母も妹に怪我させるような兄を許しちゃいけないと思っただろうし、息子と優越感に浸って母をないがしろにする夫をよしとはしないだろう。でも、家族だとそうはいかなくなるんだろうな。子供って残酷。しかも悪賢かったりする。それに親は負けちゃいけないんだろうな。子供の為にも。

とはいえ、あの母が夫と対決して息子にだめなものはだめと教えたとしても、息子がまっとうに育つかといえばやってみないとわからない。難しいな。