テルマ

 見せ方が好きだな。

◆制作
原題:Thelma 2017年 ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス

◆キャスト
テルマ役:エイリ・ハーボー
アンニャ役:カヤ・ウィルキンス

◆あらすじ
テルマはオスロの大学へ通うため、ひとり暮らしを始める。田舎町で厳格な両親の下で育ったテルマには、すべてが新鮮だった。

そんな学生生活の中で知り合った同級生のアンニャと、初めての恋におちる。厳格な教えを受けて育ったテルマは、募る欲望と罪の意識の間で葛藤するも、奔放なアンニャに強く惹かれていく。

だが、それは封印されたはずの恐ろしい力を解放するスイッチだった。テルマは不可解な発作に襲われるようになり、その度に周りで不気味な出来事が起こる。そんな中、アンニャが忽然と姿を消してしまう。

動揺するテルマは両親に助けを求め家に帰った。そこで両親が隠し続けてきたテルマの悲しき過去が明かされた時、自分すら知らない本当の自分が目覚め始めた。

***

北欧の神秘的な自然が美しい。雪の中、動物を仕留めようと銃を構える男性、その傍らには幼い少女。その男性は動物に標準を合わせていた銃口を、幼い娘に合わせる最初のシーンは、インパクトが大きい。何故、幼い少女に銃口を?という疑問を残したまま、場面は町中へと変わる。

町中のたくさんの人の中からたった一人の人間にどんどんクローズアップされていく。どうやら女性のようだけど容姿が解らず、彼女は何者?という好奇心をくすぐられる撮り方が好き。

最後まで退屈せずに観れたのは、彼女のもつ力が何かという事が知りたかったから。厳格な家庭で育てられたテルマは、他の大学生たちのようにお酒も飲まず一日の終わりには祈りをささげる真面目さ。

だがアンニャに出合い彼女にひかれていくうちにお酒を覚えて、というか飲み始めたらタガが外れたみたいにガブガブ飲む。今まで禁止されていたことに次々と手を出していく。そしてある日、彼女は痙攣し病院へ運ばれる。

病院で検査を受けるが幼少時に医者である父に、強い薬を処方されていたことを知る。だがテルマにはその記憶がない。自分の症状をネットで検索すると、宗教的異能者の症状と自分の症状が酷似している事に気がつく。そして祖母も同じ症状があった事を知る。

最初の症状が出た時、テルマの弟は亡くなっている。両親がテルマを厳格に育てた理由がそこにある。大人になったテルマはアンニャを消してしまい動揺して両親の元へ帰る。医者の父は強い薬をテルマに処方し大学をやめて家に戻れと言う。

でも、難しいよね。もう子供じゃない。お酒の味も恋愛も経験したテルマに幼い子供の頃のように薬で眠り厳格な暮らしをし、夜には祈りを捧げるなんて暮らしは。でも、自分が親の立場だったらどうしただろう。

そんな父を燃やしてしまうテルマ、そして息子の件で足がマヒした母の足を直して大学に戻るとそこにはアンニャが。

テルマは母の足を直し一度消したアンニャを戻すが、弟と父は戻らない。それは彼女が同性愛者で女性だけを助けたのか、それとも自分の邪魔だった相手を亡き者しただけなのか。

善い事だと娘の為だと信じて父は厳格な暮らしをテルマに強いるが、テルマには苦痛。正しいと信じこんでるだけで、父はテルマと一緒に悩んではいない。だから彼女は自分で答えを探した。その結果が最後の笑顔に繋がった気がする。自分で考え自分で出した答え、誰かに押し付けられたものではない。例え間違っていても納得できるのだろう。

もし自分がこの能力を持っていたとして、父を亡き者にはしない気がする。というかこういう能力は欲しくない。多分コントロールは出来るんだろうけど、それでも好きな人だけ残そうなんて考えになったら、暴君になった自分に嫌悪感が出そう。嫌いな人とは関わりたくないのにその人の生死まで握りたくない。でも抑圧され続けてきたテルマの気持ちはわかるような気がする。

あれこれ考える余地があるのもこの映画の好きなとこかも。