トマス・ハリス/ハンニバル・ライジング

ハンニバルが出た時、読者の感想は分かれたという。ライジングも分かれる気がするな。



◆制作

原題:Hannibal Rising 2007年 アメリカ 新潮社

◆あらすじ
1941年、リトアニア。ナチスは乾坤一擲のバルバロッサ作戦を開始し、レクター一家も居城から狩猟ロッジへと避難する。彼らは3年半生き延びたものの、優勢に転じたソ連軍とドイツ軍の戦闘に巻き込まれて両親は死亡。残された12歳のハンニバルと妹ミーシャの哀しみも癒えぬその夜、ロッジを襲ったのは飢えた対独協力者達だった。

愛する者をすべて喪ったハンニバルは、無感動な孤児院生活を過ごす。そんな彼を引き取ったのはフランス人の叔父ロベール。ハンニバルはその妻である日本人女性、紫夫人の魅力に強く惹かれてゆく。だが、凶事の悪夢は去らない。最年少でパリの医学校に進んだ彼は、持てる英知と才覚を駆使して記憶の一部を取り戻し、復讐を開始する。

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これまでの本と比べるとかなり展開がスピーディーで、読みやすい一冊だと思う。ただ、羊たちの沈黙にみられる駆け引きや複雑なプロット、ハンニバルという怪物が出来上がる過程を期待するとがっかりするかもしれない。

ライジングは好きな部類だな。最初はあんまりすんなり読めるので、ハリス趣向変えた?とか思った。でも後半あたりからは、無言の叫び、声にならない叫びが聞こえるような気がした。切ないけど、お涙ちょうだいじゃなく現実的で苦しい。

ハンニバルというと怪物というイメージを持つ人が多いけど、トマス・ハリスの描くハンニバルは確かに怪物ではあるけれど、とても愛情深く、それゆえに可愛さ余って憎さ百倍な復讐心が恐ろしくなる人間くささが、読んでてぞっとするし切なくもある。

ハンニバルの心の底にある、妹ミーシャへの姿。それがあまりにも悲しい。