アンドリュー・テイラー/天使の背徳

前作、天使の遊戯のエンジェルの思春期。



◆制作
原題:The judgement of strangers 2005年 イギリス 講談社文庫

◆あらすじ
妻に先立たれ娘と2人暮らしの牧師ディヴィット。同じく夫に先立たれたヴァネッサと会い、再婚を申し込む。長い間娘(ローズマリー)と2人暮らしだった牧師。牧師とはいえども1人の男性。共に支えあい愛し合う人が欲しいと長い間焦がれる気持ちはわかる。そこへ現れたヴァネッサ。牧師は彼女との甘い生活を夢見る。

だが、ヴァネッサとの結婚生活は彼が思い描いたものと違っていた。彼が思うような愛情表現を妻はあまりしてくれない。思い描いたものとは少し違っても、彼の毎日は表面上は穏やかに過ぎていく。

牧師館によくやってくる猫のピーター卿、その飼い主で牧師館に頻繁に出入りし、教会で行われる行事に熱心な喫茶店の女主人オードリー。牧師の任命権を持つ老齢の夫人、その夫人の世話を献身的にする女性。ディヴィットが名付け親になった男の子マイケル。牧師館の隣に越してきた隣人の兄弟。小さな町の小さな教会とその町に住む人々の平和な日常。

異変が表面化した最初の出来事は、ピーター卿の殺害。そこから歯車が回るように、バランスが崩れていく。

***

もしその時点で、ディヴィットが気付いていたら何か変わっただろうか?否、それは無理な話なのかもしれない。何しろ、ディヴィットは自分自身の事で手いっぱいだったし、猫が変な亡くなり方をしても、気に留める余裕はなかったのかもしれない。それは責められる事ではないだろう。

娘の言動に気を付けていたとしても、その年になればいろんな事を表に出さなくなるだろう。最後の事件に突っ走るまで、止める手立てはあったんだろうか?現実にあの中に自分がいたら、何も出来ない気がする。天使の遊戯を読んでいなかったら、この本には手をつけなかったかも。けれど、前作を読んでいるだけに、気になった。読後に残ったのは、欲望。男としての欲、女としての欲。その欲、願望にどう向き合うか。