トマス・H・クック/心の砕ける音

 クック節は健在だな。



◆制作
原題:Places in the Dark 2001年 アメリカ ‎ 文藝春秋

◆あらすじ
ロマンチストの弟は「運命の女」がきっといると信じていた。リアリストの兄はそんな女がいるはずはないと思っていた。美しく謎めいた女が兄弟の住む小さな町に現れたとき、ふたりはたしかに「運命の女」にめぐりあったのだったが。

***

メイン州の小さな街、2人の兄弟。時々ぶつかったりはするけれど、リアリストの兄を弟は尊敬し、明るくロマンチストな弟を兄は憎めない。2人の兄弟が育っていく過程が、静かに語られていく。

大人になった弟は、とうとう運命の人を見つけたと思う。が、弟は亡くなり運命の人のはずのドーラはいなくなる。ドーラに兄も惹かれていて、それが余計に謎を謎のままにしておけず、兄はドーラ探しの旅に出る。

何故、ドーラは消えたのか。何故、弟は血とバラの中で死んだのか。仕事をやめてまで、ドーラの後を追う兄がたどり着いた真相。

クック節顕在。決して派手な事が起きる訳ではない。静かに子供時代が、日常が語られていく。が、気がつけば謎にからめとられ、その答えを知りたいと思う主人公の目を通して、物語を見ている事に気付く。

真相にたどり着いた時、よぎるのは怒りでも恐怖でもない。どうしようもない切なさ。誰かが悪いのではなく、恨むとしたら運命を恨むしかないのかと思わせる切なさ。

歴史教師のクックらしいストーリー。あー、やっぱりクックは好きだな。