リンダ・ラ・プラント/渇いた夜

 とんでもなく辛い状況に追い込まれた時、その人の本質が見えるのかもしれないな。

渇いた夜 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 6-3) - リンダ ラ・プラント, La Plante,Lynda, 章子, 奥村 渇いた夜 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 6-4) - リンダ ラ・プラント, La Plante,Lynda, 章子, 奥村
渇いた夜 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 6-4) - リンダ ラ・プラント

◆制作
原題:COLD BLOOD 1997年 イギリス 早川書房

◆あらすじ
酒に溺れ、仕事も家庭も失った元警部補ロレインは、酒を断つことを決意し探偵事務所を開いた。だが経営は苦しく、生活もままならぬところへ大物の依頼が舞い込んだ。

一年ほど前、ニューオーリンズで行方をくらませてしまった、往年の名女優の娘で大学生のアンナ・ルイーズを探しだしてくれというのだ。ロレインはアンナ・ルイーズの身辺を探るうち、やがて娘の家族の驚くべき秘密を知る、

娘は誘拐されたのか、それとも家族の秘密に関わる何者かに殺されたのか。新たな手がかりを求め、ロレインはニューオーリンズへ飛ぶ。

***

辛い状況に追い込まれた時、どうしよーもなく落ちる時。そういう事がないとは誰にも言えない。自分だったらどうするだろうと思いながら読んだ。

凍てついた夜でお酒を断ち、やり直す決心をしたロレイン。だが決心をしたからといって、お酒への渇望がなくなるわけじゃないし、人生が劇的に変化する訳でもない。

誘惑に負けるというのは、周囲の気持ちを裏切る事になる。それがロレインを支え、時にはプレッシャーになる。毎日が自分との戦い。一日、一日、なんとか乗りきる。依頼はなく生活は苦しく、誘惑に負けそうになる要素はいっぱい。

仕事には戻れない。元夫とは離婚する前からひえきっていて、その隙間を埋めた人はすでにこの世にいない。ロレインの結婚生活は、1つの船を前と後ろで漕いでたようなもの。

夫は仕事が忙しく、妻にサポートして欲しいと思っていたが、ロレインも仕事が忙しくそんな余裕はなく、動けない2人。最初は愛し合ったのだろう。でも、生きる道が違ってた。

***

そんな時、仕事の相棒がロレインを慰めてた。仕事の辛さも楽しさも共有でき、お互い尊重出来た。ロレインは、彼と暮らす方が幸せだったはず。でも、いろんな問題があって、彼女には決断できなかった。夫との破局、理解してくれた人との死別。孤独感はかなり強い。

自分と戦うロレインの事務所に新規の依頼。往年の大女優の娘、アンナの失踪。アンナの周辺を探るうち、家族の秘密を知る事になる。この捜査で、何度となく誘惑されるが振り切るロレインに拍手したくなる。

辛い事があった時、そこで逃げたり落ち込むのは誰にでもある事。思いつめるよりいいかもしれない。が、問題はその先。そのまま自己憐憫に陥るか、もう一度、やり直すか。

陥る方が楽。立て直す方がはるかに難しいし辛い。そんな辛い道を歩く事が、やがて希望になる。自信になる。道のりは長いけれど、応援したくなるロレインが好き。力を貰える気がする。