京極夏彦/今昔百鬼拾遺 鬼

 相変わらずの京極さんワールド。

今昔百鬼拾遺 鬼 (講談社タイガ) - 京極 夏彦
今昔百鬼拾遺 鬼 - 京極 夏彦

◆制作
2019年 日本 講談社

◆あらすじ
「昭和の辻斬り事件」7人目の被害者、片倉ハル子の友人の呉美由紀から、相談を受けた「稀譚月報」記者の中禅寺敦子。何かが変だと美由紀は言う。生前、ハル子は「先祖代代、片倉の女は殺される定め。しかも斬り殺されるんだ」と言っていたと言う。美由紀と同じように何かが変だと思う敦子は、事件を調べてみることに。

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昭和の辻斬り事件、被害者は7人、そのうち4人は死亡し、2人は重症。1人は軽傷だった。美由紀の友人ハル子が殺された後、犯人は現行犯で捕まっていた。19歳の旋盤工、宇野。宇野はハル子と交際していて、ハル子とそれ以外の犯行も自分がやったと自供していた。そしてその犯行現場には、ハル子の母勢子もいたという。

だが、美由紀はハル子と宇野が付き合っていたとは思えないという。そしてハル子は生前、自分は切り殺されるのだと言っていたという。何かが変なのだが何が変なのかわからないとも美由紀は言う。

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昭和の辻斬り事件の内容がわかってしまうと、犯人は想像がつく。可能性のある人間は限られていて、そこから性格的、年齢的に事件を起こす可能性がない人を除くと、答えは出てしまう。が、動機がわからない。そこに引っ張られるようにして読んだ。犯人は何を考えて人を斬り命を奪ったのか。

京極ワールドではあるのだけど、正直に言うと少しぼんやりした印象。それは多分、当事者の話が最後まで出てこないせいだと思う。宇野は刑務所に入ってるから本人とは話せず、彼と関係のあった人達から、宇野という人物の話を聞くことになる。ハル子はすでにこの世の人ではない。そして聞き込めば聞き込むほど、宇野がハル子を殺したとは思えなくなる。

読み終えて動機がわかってしまうと、納得は出来る。もし、事件や刀に触れる機会がなければ、芽生えなかったかもしれない。そこに刀が無ければ、妄想で終わってたかもしれない。もともと持ってる性質、そういう事に触れる機会、使える刀、年齢、タイミングが揃ってしまった。

けれど、動機が好みじゃなかったのか。被害者の苦しみとか悲しみが伝聞過ぎて出てこないせいか、生々しさが少なくて響かなかった気がする。これは好みの差なのかなー。