ジュディス・スペンサー/ジェニーのなかの400人

ノンフィクション。人格が400人に分裂した実際の話。

ジェニーのなかの400人 - ジュディス スペンサー, Spencer,Judith, 宏明, 小林
ジェニーのなかの400人 - ジュディス スペンサー


◆制作
原題:Suffer the child 1993年 アメリカ 早川書房

◆あらすじ
アメリカ南部で私生児として生まれたジェニー。望まれぬ子供。母親から疎まれ、悪魔を崇拝するオカルト教団に入れられ売春を強要され暴力をうけた。

性的虐待から逃れようと、ジェニーの人格は無数の断片に裂かれた。ジェニーの記憶はほとんど繋がらず、失ったに等しい状態になった。

5年を超える人格統合の治療の中で、彼女の壮絶な幼児体験があきらかになっていく。400もの人格に分裂したジェニーに平和な日々は訪れるのか。

多重人格の苦悩、克服する為の困難を追った一冊。

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これを読んだ当時は、日本ではありえないかなと思ってた。でも、私が知らないだけで全くないとは言えないのだなと思いなおして、怖くなった。

子供を性的な対象にする男性。その男性に気に入られたくて子供を差し出す女性。そこから逃げ出す事が出来ないほど幼い子供。それがジェニー。

400人にまで分裂したジェニーの人格は、名前さえつけられない人格もいた。その時々ただ耐えるだけの為だけに生まれた名前すらない人格たち。何人かの人格が統合され、少しずつ整理される。

その間、消えていくと不安に感じる人格と気長に向き合い、気の遠くなるほどの時間をかかっている。それなのに、ちょっとした事で統合された人格が分裂し、振り出しに戻る事もある。

体験した事のない世界だからわからないけど、中途半端な気持ちで関わったら相手を傷つける事になる気がする。こういう事に対処する専門家の忍耐強さには敬服する。

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ジェニーがこの治療を受けることになったきっかけが、記憶の欠如。人に聞かれても覚えてない。自分がしたとは思えない事を他の人格がやっていて、怒られたり迷惑をかけていたり。ジェニーが耐え難い思いをして生きてきたのがよくわかる。

その後、治療の途中で過去に向き合わないといけなくなり、辛い思いをした家へ戻ったりもする。記憶がなくても体が拒否する。戻る記憶は残酷。読んでいるだけでどれだけ辛いのかがわかる。

こんなに残酷なことがあっても人が生きている事に驚いたらいいのか、生きていくために400もの人格に分裂する事に驚いたらいいのか。名もない小さな人格が絶える為だけに作られる事に驚いたらいいのか。彼女に平安が訪れる事をひたすら願う。