トマス・H・クック/石のささやき

 人って悲しい。

石のささやき (文春文庫 ク 6-16) - トマス・H. クック, Cook,Thomas H., 潔, 村松
石のささやき (文春文庫 ク 6-16) - トマス・H. クック


◆制作
原題:The Cloud Of Unknowing 2007年 アメリカ 文春文庫

◆あらすじ
姉が壊れはじめたのは幼い息子を亡くしてからだった。すべてが取り返しのつかない悲劇で幕を下ろしたあと、私は刑事を前に語りはじめる。破滅の予兆をはらみながら静かに語られる一人の女性の悲劇。やがて明かされる衝撃の真相。

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思い込むと取り返しのつかない事になったりするかもしれない、と考えると怖い。好きな作家なのだけど、ちょっと好みから外れ気味だったかな。ミステリーだと言われればそうなんだけど、ミステリーではなく1つの物語として読む方が、楽しめた気がする。物語としては重いけど悪くなかったし。

弁護士のディヴィットは、父親に認めて貰えなかった息子。姉のダイアナの方が父親に認めて貰っていた時期があってそれがコンプレックスになってる。ダイアナは、父親が亡くなる時に暴言を吐かれている。多分それまでにダイアナは、父親が誰も認めない事を知ってたんじゃないかと思う。

そんなダイアナの息子が溺死した。そこから事態が少しずつ変わっていく。ダイアナがおかしくなっていて、自分の娘もその影響を受け始めてると思うディヴィット。彼はダイアナの話に耳を傾けるべきだった。先入観を捨てまっさらな状態で。

けれど、ディヴィットには父の病気や自分のコンプレックスからくる先入観を捨てきれなかった。それがある以上、ダイアナは弟にわかって貰えるとは思わなかったんだろうな。娘が彼に反発したのも同じ理由。

とはいえ、誰が彼を責められるだろう。誰だってあることだもの。相手の声を聞かなかった事が、1人の人間を死に追いやってしまう。人って悲しいな。