落下の解剖学 嫉妬は身の破滅
わりと面白かったな。ちょっとネタバレしてるかも。
◆制作
原題:Anatomie d'une chute/Anatomy of a Fall 2023年 フランス
◆キャスト
サンドラ:ザンドラ・ヒュラー
ヴァンサン:スワン・アルロー
ダニエル:ミロ・マシャド・グラネール
サミュエル:サミュエル・セイス
犬:メッシ
◆あらすじ
夫のサミュエルと11歳の視覚障害のある息子と暮らしていた、ベストセラー作家のサンドラ。インタビューを受けたその日、夫のサミュエルが転落死した。当初事故だと思われていたが、警察は妻サンドラに殺人容疑を向ける。裁判がはじまり一家の秘密や嘘が暴露されていく。
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夫の遺体を発見したのは目が見えない息子のダニエル。家の中では夫がかけていた大音量の音楽が鳴っていた。警察は妻サンドラに疑惑の目を向ける。ダニエルが視力を失った事情、サンドラがバイセクシャルである事、そして夫を裏切った事がある事が前半の裁判の中で明かされる。ベストセラー作家のスキャンダルはそれだけで注目の的。
ところが裁判の最中に息子ダニエルが思い出したことがあると言い始めた。そこから展開が変わっていく。妻から見た夫、息子から見た母と父、夫が何を考えていたのかを証言する精神科医。
法廷物は好き。いろんな人の目を通した話が出てくる。同じ事でも見る人が違うと感じ方が変わる。証言している人にとっての真実が必ず正しいとは限らないところが面白い。
今回は、人を許せるかどうかという事と、自分を知る事がテーマになってる気がした。ベストセラー作家の妻のサンドラ。どこでも仕事は出来る、眠れる、順応して作るタイプの人。それは生まれ持った気質。息子が視力を失った時、自分も夫も責めるが、それが誰の為にもならない事を自覚してる。気持ちの持っていく場がなくて他の人と関係を持つ。逃避なのかな。そうやって自分を取り戻し夫の元へ戻ってきてる。夫を裏切ったサンドラは夫を責められないし、もし夫が別れると言ったらサンドラは受け入れたんじゃないのかなと思う。サンドラが事故の事で夫を責めたのは、自分の苦しみを息子に押し付けたからと言っていた。事故の原因とは別のところにあるのに夫は気が付いてなかったんだろうな。
夫は育てる人なんじゃないのかなと思う。だが作る人になろうとした気がする。どっちが先だったのか忘れたけど、本を書こうとするが書けなくて子供が視力を失った事で自分を責めた。気持ちはわかるけど息子の視力に関しては誰も悪くない。責めるとするなら事故を起こした人になるんじゃないのかな。書けなくて引っ越しをして環境を変えると言い出したのは夫で、妻は夫と共に山荘へ来たのに結果が出せず自分が苦しくなって妻を責め始めた。手放したはずの構想を勿体ないと夫の了解を得て妻が作り直して発表したら激怒してる。夫の話とは全然違うのに。
夫が救われるとしたら、妻とは一度離れてみるしかなかったんじゃないかな。自分がなりたかった作家という姿を目の前で見てしまう。見るたびに敗北感を感じてた気がする。自分が出来る事をやって生活を立て直し、妻に嫉妬しなくなったらまた一緒に暮らせる日が来たかもしれない。教師という職に喜びを見出せたかもしれない。
今回よかったのは犬さん。あの目、拍手したくなった。猫派orハムスター派なのになw